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言語選択

4.3 発表時の留意点

PowerPointのスライドの準備ができたら(または、準備と並行して)、口頭発表の練習もしなくてはなりません。効果的な発表の極意は、いかにして聴衆があなたのメッセージを受け入れてくれるかです。いくら一生懸命資料を集めて立派な内容を準備しても、それがうまく聴衆に伝わらなければ効果はありません。いくら自分が上手に発表ができたと思っても、聴衆にとってつまらないものなら自己満足に終わってしまいます[注7]。ここでのポイントは発表時に、いかにこの人の話は聞くに値する、というイメージを聴衆の心の中に作り上げるかです。有名人や専門家と違って学生のプレゼンテーションでは、本人にもともとそういった権威性はありませんので、しっかり内容の準備をして十分に練習をして発表に臨んでいるということを発表自体で示すことによって、発表者としての評価を得る必要があります。以下、発表時に注意する点をいくつか書いておきましょう。

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[7] 外国語の授業などの発表でどこまで、聴衆への効果を求めるかは、授業の目的にもよるでしょう。

原稿は暗記するのか

口頭発表の方法としては、いくつかの方法があります。特に外国語で発表する場合、原稿を暗記するということもあります。丸暗記をして、本番で記憶を辿りながらどうにか暗唱する、というのは効果的ではありません。何度も練習をして自然な発表ができるようにしましょう。

完全原稿を読み上げるのは一部の学会発表などでも見られます。プレゼンテーションとしては、原稿を読み上げるのはアイコンタクトなどが十分にできないのであまりお勧めではありません[注8]。もし読み上げる場合も、要所要所では聴衆の方を見るようにして、聴衆に語りかけている、という姿勢を示すことが大事でしょう。

紙媒体の原稿ではなく、手元のPCのスクリーンで読むこともできます。原稿をPowerPointのノート機能を使って、スライド毎に対応する文章を入力しておき、「発表者用ツール」という機能を用いてプロジェクターにはスライドだけ映します。「発表者用ツール」を用いると図8 のような設定でプレゼンテーションをすることになります。

アウトラインや発表用のメモを用意して、それに基づいて発表を行うということはおそらく一番よくつかわれる発表方法でしょう。PowerPoint のスライド自体が発表用のメモとしての役割を持つこともあります。その場合は、発表者がスクリーンの方を見てしまうと、聴衆に背を向けることになりますので要注意です。アウトラインやメモで発表する場合も、直接引用文などは正確に読み上げるために、原稿にそのまま書きこんでおきましょう。

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[8] 日本の入学式や卒業式で祝辞を読むのは、それを書いた紙自体をポケットから取り出し、蛇腹に折り込んだものを繰りながら読み上げること自体が儀式的な意味があるのかもしれません。

スライドは説明する

スライドに語らせる、聴衆にスライドを読んでもらう、ではあなた自身のプレゼンテーションにはなりません。「このスライドを読んでください」、「昨年の犯罪者数は、この表のとおりです」、では、聴衆はこちらが見てほしいところを見ていないかもしれませんし、こちらが想定している解釈をしてくれていないかもしれません。日本の交通事故死者数の推移のグラフを見た人は、事故が減少しているので自動車が以前より安全になったと思うかもしれませんし、毎年何千人も死んでいるので自動車は走る凶器だと思うかもしれません。

スライドのタイミング

スライドを見せるタイミングも要注意です。聴衆が必要な情報を読み取るだけの時間提示する必要があります。そのためにも見せるだけではなく、説明することが大切です。見せるだけだと、聴衆が見終わっていないうちに次に進めてしまったりします。必要がなくなればスライドは隠しましょう。地球温暖化について、平均気温の推移のグラフを見せて説明した後、話は温暖化によって引き起こされる台風の話に移っているのに、スライドは気温のグラフのままだと、聴衆はあなたの話を聞かずに気温は上昇しているのか周期的な変動の範囲なのかなどと考えをめぐらしているかもしれません。まだ次のスライドが出てこないのであれば、スクリーンは消しておきましょう。PowerPointのスライドショーの画面ではキーボードの「B」キーを押すと画面は暗転します[注9]。

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[9] 場合によってはプロジェクターのミュート機能を使います。電源は切らないように。再度起動するのに時間がかかります。

交通整理・道案内を

説明や議論をする場合、基本形は序論-本論-結論であることは前の章で説明しました。序論では中心となる主張と本論での内容の予告をするといいでしょう。本論では、途中で話し終わった点のまとめをして次の点に進むなど、交通整理をしましょう。話し言葉では書き言葉以上にこれから何を話すかという予告とこれまで何を話したかという要約が重要です。書き言葉は紙の上に残っていて読み返せますが、音声の話し言葉は次々と消えていき、「聞き返す」ことはできません。スライドも聴衆が勝手に戻すことはできません。

適切な音声

音声についてもいくつかのポイントがあります。まず、発音ですが、外国語で発表する場合は特に心配の種でしょう。上達には日ごろの練習しかありませんが、母語話者の発音を完璧に身につけるのは大人になってから学習した言語では至難の業でしょう。母語話者に近づくという目標よりも、国際的に広く理解されるような発音を心がけることが大切でしょう。

声の大きさ、発声の明瞭さ、話す速さ、などは練習で向上します。また、母語話者でも練習をしないと効果的な話し方はできません。声の大きさは特に会場の大きさと関係し、後ろの席の人まで聞こえる大きさでしゃべりましょう。プレゼンテーションは目の前の人と対話をしているのではありませんから、囁くような声では伝わりません。必要なら腹式呼吸法を用いた発声練習をするといいでしょう。マイクとスピーカーの設備がある場合は、それにふさわしい発声があります。また音量の調整も大切です。マイクに向かって大教室の後ろまで届くような肉声でしゃべれば、音が割れて聞き苦しい発表になってしまうでしょう。原稿をマイクと口の間に置いてしまうと、マイクは十分に声を拾えません。

話す速度も速すぎず、遅すぎず。早すぎれば当然聴衆は聞き取りにくくなります。ただし、ある程度の早さは自信や能力の表れとして説得力が増す場合もあります。

身振り・手振り・表情・姿勢・視線

目は口ほどにものを言う。言い古されたことばですが、まさにその通りです。できる限り聴衆の方を見て、話しかけているという姿勢を取りましょう。あまりきょろきょろ見回すのではなく、話のポイント毎に身体全体を少し動かして聴衆の一人を見るようにし、次のポイントで視線を移動させてはどうでしょうか。口では「この料理はとてもおいしかった」と紹介しても暗い表情をしていれば、聴衆は「本当はおいしくなかったのかな」と思ってしまいます。ニヤニヤ笑いながら謝罪の言葉を重ねても誠意は伝わらないでしょう。ジェスチャーなどを効果的に使って伝達することも可能です。逆に不必要な身体動作のために聴衆の注意をそらしてしまうこともあります。自分でも気付かずに何度も頭を掻いていると、聴衆はあなたが発表を終えるまでに何回頭を掻くだろうと数え始めるかもしれません。