3.2 本論の構成
プレゼンテーションの中身である本論はどのような原理で構成できるでしょうか。本論の中でものごとがどのような関係になっているのか、と考えてもいいでしょう。聞いていて、首尾一貫した話だ、論理的に矛盾のない議論だと、聴衆が分かるような構成を作りましょう。よく用いられる構成を簡単に紹介しておきますので参考にしてください。
時間的順序
ものごとを時間の順序で並べるのはよくあることです。自己紹介や人物の紹介をするときに、生まれてからの重要な出来事を順序よく並べることができます。自分の故郷や有名な町の紹介をするのに、その歴史を年代順に語るのもよいでしょう。物語も単純な構成では、時間の順序に出来事が語られます。もっとも、小説など作品としての物語では、登場人物の回想があったり、SF小説ではタイムマシンで時間を飛び越えることはあるかもしれません。
空間的順序
観光地の紹介をするのに、遊歩道に沿って順に名所を辿っていくこともできます。コンピュータのキーボードを知らない人に、キーの配置を説明するのも空間的順序を使うかもしれません。手元にあるキーボードを説明してみましょう。左上にESCキーがあります。その右にF1 キーがあり、順に右にF2 、F3、F4 とF12 まで続きます。その右隣りはPrtScrキー、Scroll Lock、Pause、と続きます。上から2 段目には左から、半角/ 全角キー、数字の1、2、3、と並びます。
分類
いろいろなものやことを説明するのに分類が使われます。動植物の分類は複雑な体系をなしています。新種と思われる生物が発見されると、既存の分類のどれかに当てはめようとします。人間の血液型を分類して説明するような場合には、その分類原理を説明し、範疇を尽くします。
手順
仕事や目的を達成するための作業手順という話の構成があります。おいしいフルーツケーキの作り方、電子メールのアカウントの設定方法、大学合格から入学までの手順、等々。作業をいくつかの段階に分けて概ね時間の順序で説明しますが、枝分かれをしたりしますので、単純に時間の順序とは限りません。大学入学を考えると、大学での入学書類などの手続きの手順とアパートを探して引越しの手順にまず分かれますが、単純な時間順序では、二つの手続きの流れが混在してしまいます。
理由
自分の主張に理由づけをする、理由から結論を導く、といった構成は頻繁に用いられます。主張や結論と理由の間の論理的関係が妥当かどうかが問題となるとともに、話の順序も考慮する必要があります。理由を述べてから結論を導くのか、結論を先に述べてから理由を挙げるのか。また、理由が複数ある場合は、どういった順序で並べるのがいいでしょうか。弱い理由を先に挙げて、順に強い理由を挙げるのが効果的でしょうか。逆に、強い理由を先に挙げるほうがいいでしょうか。
因果関係
ものごとの原因と結果の関係を用いた話の構成もよく用いられます。原因から結果を予測する場合と、結果から原因を推測する場合があります。原因と結果の間に一対一の関係がない場合は注意が必要です。「習慣的に喫煙すると肺癌を引き起こす」という因果関係を示す資料があったとしましょう。これを基に「A氏は習慣的に喫煙している」という事実から「A氏は肺癌になるだろう」という結果を主張することができそうです[注1]。逆に「B氏が肺癌になった」という事実から「B氏は習慣的に喫煙していた」という原因の存在を推測できるでしょうか。肺癌の原因は他にもありますから、論理的には結論に必然性はありません[注2]。
因果関係が証明できない事象の間にも統計的に相関関係がある場合、それを論拠にする議論も組み立てられます。
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[1] もちろん、喫煙と肺癌の因果関係は「すべての喫煙者は必ず癌になる」というものではありませんので、主張の確からしさは100%ではありません。
[2] ただし、喫煙が肺癌の主要原因である場合、喫煙を原因の有力候補と考えることはできます。
問題解決
現状の問題を分析し解決策を提案する、という話の構成は、説得を目的とするプレゼンテーションに適しています。問題の深刻さを示し、問題の原因を特定し、実行可能な解決策を説明し、問題が解消する(もしくは問題状況が改善される)ことを予想します。
地球温暖化は深刻な自然災害を増加させていることを示し、原因が石油石炭など化石燃料の使用によるCO2 排出であると分析し、自宅に太陽光パネルと発電用風車を設置しようと訴えることができるでしょう。
問題解決のプレゼンテーションは、さらに複雑な構成を取ることもあります。予想される反論に対する応答を初めから組み込んでおくこともできます。たとえば、温暖化の原因は多様で住宅に太陽光パネルや風車を取りつけただけでは問題は解決しないという反論に対して、まずできるところから始めようという、それが私たちみんなの責務だ、と道義的な訴えもできます。住宅用発電の変更によるCO2 削減の試算を示す資料を提示して、大きな効果があると主張することもできるかもしれません。代替発電は原子力発電のほうがいいのではないかという疑問に対して、原子力発電の事故の危険性や廃炉と廃棄物処理にかかわる技術的問題を指摘して、原子力発電を退けることもできるかもしれません。