2.2 自分の知識や経験
個人の知識や経験がプレゼンテーションの資料になるのでしょうか。場合によるでしょう。トピックに関連する分野の専門家であったり、歴史的事件の当事者であったりすれば、その知識や経験は、立派な資料になるでしょう。たとえそういった立場になくても、自己紹介や家族紹介のプレゼンテーションであれば、個人の体験を語ることが発表内容の中心となるかもしれません。社会的問題についても、CO2 削減のために個人レベルでできることを発表する場合、自分自身が実践している節電方法を説明することは大切です。
多くのプレゼンテーションにおいては、個人の知識や経験は、それだけでは十分な資料とは言えません。話をわかりやすくするための例であったり、聴衆の注意を引くための手段であったりすることが多く、主題を支える説明や根拠としては、一般化できない限定的なものと聴衆には感じられるでしょう。そのほかの情報源からの資料によって十分に一般化できる説明や論証が行われている場合に、個人の知識や経験を例として用いることでより説得力のあるプレゼンテーションとなるでしょう。
自分の知識や経験は、もちろん記憶を辿ることによって入手します。すぐに思いつかなかったことでも、第1 章で紹介したような、ブレーンストーミングを行ったり、マインドマップを作成したりすることによって記憶の底から浮かんでくることもあるでしょう。
人の記憶は不確かなものです。自分の知識が勘違いや記憶違いによるものでないかを検証するために、他の出典(文献や他の人)からの知識と整合性があるかどうか確認する必要があります。事実関係だけではなく、意見や判断を含んだ知識については、結論部分だけではなく、その理由や根拠も含めた知識を持っているかどうかが大切です。経験は経験談として一つの物語として提示することになるでしょう。そうすると、その物語に現実味が必要です。場面や登場人物の詳細はわかるか、出来事の連続(話の筋)は矛盾がなく有り得そうなものか、などが確認項目でしょう。もちろん、世にも奇妙な体験をしました、ということもあるでしょう。その場合、場面や登場人物や出来事の詳細を説明することによって、話の信憑性を高めるだけではなく、他の目撃者や体験者がいることが重要です。「私は空飛ぶ円盤で自宅の裏庭に来た火星人といっしょに宇宙旅行をしました」と言っても、それだけでは聴衆は納得しないでしょう。